小学校で子どもが「なぜ死ぬの?」「死んだらどうなるの?」と問い始めたとき ~根源的な問いへの寄り添い方と応答~
子どもの「なぜ死ぬの?」「死んだらどうなるの?」という問いにどう向き合うか
小学校の子どもたちが成長する過程で、「死」に関する問いかけをすることは自然なことです。特に、「なぜ死ぬの?」「死んだらどうなるの?」といった根源的な問いは、生きていることの意味や世界の仕組みについて考え始める大切なステップと言えます。これらの問いは、授業中や休み時間、あるいは個人的な会話の中で突然発せられることがあり、教師としてはどのように応答すべきか迷うこともあるかもしれません。
しかし、これらの問いかけは、子どもたちが自らの死生観を形成していく上で非常に重要な機会です。専門的な知見に基づき、子どもたちの問いに誠実に向き合い、安全で安心できる対話の場を提供することは、教育現場における死生観教育の根幹をなすと考えられます。
子どもの問いかけの背景を理解する
子どもが「死」について問いかける背景には、様々な要因があります。
- 発達段階的な興味・好奇心: 概ね小学校中学年頃から、抽象的な思考が可能になり始め、生命の有限性や死後の世界といった目に見えないものへの興味や疑問が生まれます。
- 具体的な出来事: 身近な人やペットとの別れ、ニュースで見た事件・事故、テレビや絵本の登場人物の死などがきっかけとなることがあります。
- 不安や恐怖: 自分自身や大切な人がいなくなることへの漠然とした不安や恐怖心から問いを発することもあります。
- 知的な探求心: 「生きていること」と「死んでいること」の違いを理解しようとする探求心の表れです。
これらの問いは、単なる知識の欠如を示すものではなく、子どもが自らの存在や世界について深く考え始めているサインです。教師は、まずこの問いかけが子どもにとってどのような意味を持つのかを理解しようと努めることが重要です。
応答の基本姿勢:誠実さと寄り添い
子どもからの「なぜ死ぬの?」「死んだらどうなるの?」という問いに対し、教師が取るべき基本的な姿勢は以下の通りです。
- 誠実に、分かりやすく伝える: 子どもの年齢や理解度に合わせて、正直に、かつ分かりやすい言葉を選んで応答します。曖昧な表現やごまかしは、かえって子どもの不安を増長させたり、不信感につながったりする可能性があります。
- 分からないことは「分からない」と伝える勇気: 死後の世界など、科学的に証明できないことや大人でも答えが出せない問いに対しては、「大人にもはっきりとは分からないことがあるんだよ」と正直に伝えても構いません。すべてを知っている必要はありません。
- 子どもの気持ちに寄り添う: 問いかけの背景にある子どもの感情(好奇心、不安、悲しみなど)に寄り添い、「そう思ったんだね」「〇〇ちゃん(くん)は、どう思う?」など、子どもの考えや気持ちを引き出すような声かけを意識します。
- 答えを一つに決めつけない: 死生観には多様な考え方や価値観が存在します。特定の宗教観や死生観を押し付けるのではなく、様々な考え方があることを示唆する形で応答することが、子どもの視野を広げ、自ら考える力を育みます。
- 安全・安心な対話の場を作る: どのような問いかけも受け止められる雰囲気を作り、「死について話しても大丈夫なんだ」と子どもが感じられるようにします。
具体的な応答例とアプローチ
具体的な応答は、子どもの年齢や問いかけの状況によって異なりますが、いくつかの例とアプローチを紹介します。
「なぜ死ぬの?」という問いへの応答
- 生き物の自然な一生として伝える: 「生きているものは、生まれたり育ったりして、いつか一生の終わりを迎えます。それは植物も動物も、私たち人間も同じ、自然なことなんですよ。」
- 体の機能停止として伝える(高学年向け): 「私たちの体は、心臓が動いたり、脳が働いたりすることで生きています。でも、病気になったり年をとったりすると、体がうまく働かなくなって、やがて命の働きが止まることがあります。それが死ぬということです。」
- 命のつながりとして伝える: 「死は終わりでもありますが、新しい命が生まれることにもつながっていきます。例えば、植物が枯れると土になり、そこから新しい芽が出たり、他の生き物の栄養になったりします。命は形を変えながらつながっていくと考える人もいますよ。」
「死んだらどうなるの?」という問いへの応答
この問いには、科学的な答えはありません。多様な考え方を紹介し、子ども自身が考える余地を残すことが重要です。
- 様々な考え方があることを伝える: 「人が死んだらどうなるかについては、昔から色々な考え方があるんだよ。目に見えない魂になって空に行く、生まれ変わって別の生き物になる、みんなの心の中に生き続ける、何もなくなってしまう、など色々な風に考えている人がいます。」
- 特定の考えを「正解」としない: 「先生もどうなるかははっきりとは分からないけれど、〇〇ちゃん(くん)はどうなると思う?」と問い返し、子どもの考えを引き出します。子どもの考えを否定せず、「そういう考え方もあるね」と受け止めます。
- 比喩や絵本の活用: チョウの一生(幼虫→さなぎ→チョウ)や、落ち葉が土に還る様子などを比喩として用いたり、「いのちのたいせつさ」や「別れ」をテーマにした絵本を読み聞かせたりするのも有効です。
その他のアプローチ
- クラス全体での話し合い: 子どもたちの関心が高い場合は、クラス全体で話し合う機会を設けることもできます。ただし、特定の考えを強制したり、個人的な深い悲しみに土足で踏み込むようなことにならないよう、教師が安全なファシリテーションを行う必要があります。
- 個別対応の重要性: 死別経験のある子や、死への強い恐怖心を持つ子に対しては、個別の丁寧な関わりが不可欠です。その子の状況や気持ちに寄り添い、安心感を与えることを最優先します。必要に応じてスクールカウンセラーなどの専門家と連携します。
まとめ:問いかけを受け止めることが、死生観を育む第一歩
子どもが「死」について問い始めることは、彼らが自己と世界、そして生命について深く考え始めた証拠です。これらの根源的な問いに、教師が誠実かつ適切な姿勢で向き合い、多様な考え方を尊重する対話の場を提供することは、子どもたちの健やかな死生観の育成に不可欠です。
すべての問いに完璧な答えを与える必要はありません。大切なのは、子どもたちの「知りたい」という気持ちや、そこにあるかもしれない不安を受け止め、「一緒に考えてみよう」「色々な考え方があるんだね」という姿勢を示すことです。日々の教育活動の中で、命の大切さや有限性について考える機会を意図的に設けるとともに、子どもたちからの予期せぬ問いかけにも柔軟に対応できるよう、教職員自身も死生観について考えを深めていくことが望まれます。