遊びを通して深まる子どもの死生観:小学校での見守りと対話のアプローチ
子どもの遊びに潜む「死」のテーマ:教育現場での気づき
小学校の教室や校庭で繰り広げられる子どもたちの遊びは、彼らの内面世界や現実世界の理解が反映される豊かな場です。その遊びの中に、時として「死」や「命」といったテーマが現れることがあります。
これは、子どもたちが日常の中で見聞きすることや、自身の経験、想像を通して、これらの根源的な問いに向き合おうとする自然な姿です。教職員にとって、こうした遊びの場面は、子どもの死生観の育ちを感じ取り、適切なサポートや対話の機会を見出す重要な手がかりとなります。
この記事では、子どもの遊びの中に現れる死生観に関連する様子をどのように捉え、教育現場でどのように見守り、対話につなげていくかについて、専門的な知見に基づいた実践的なアプローチをご紹介します。
なぜ遊びの中に死生観が表れるのか
子どもは遊びを通して、現実世界で起きる出来事や、まだ十分に理解できない事象を模倣したり、自身の感情を表現したりします。死は、生物の営みの一部として子どもたちの身近にも存在し(昆虫の死、ペットの死など)、テレビや絵本、ゲームといったメディアを通して触れる機会も少なくありません。
子どもたちは、こうした断片的な情報や漠然とした感覚を、遊びという安全な場で再構築し、消化しようと試みます。ごっこ遊びの中で誰かが「死ぬ」役を演じたり、小さな虫の「お葬式」をしたりすることは、死という現象に対する彼らなりの探求であり、理解を深めようとする過程と言えます。
遊びの中に見られる「死」に関連する具体的なサイン
小学校の子どもたちの遊びの中で、死生観に関連するテーマが見られる場面は様々です。
- ごっこ遊び: 病院ごっこでの「患者さんが危ない」、お葬式ごっこ、戦いごっこでの「死んだふり」や「生き返り」。
- 生き物との関わり: 飼育している生き物(メダカ、ウサギなど)の死に直面した際の反応、道端で見つけた昆虫の死骸への関心や扱い方(埋葬しようとする、じっと観察する)。
- 創作活動: 絵や物語の中に死や別れをテーマにした表現が登場する。
- ゲーム: テレビゲームやカードゲームで「HPがゼロになる」「倒れる」「復活する」といった概念に触れる。
- 日常の会話: 遊びの中で「もし〜が死んじゃったらどうなるの?」といった問いかけが出てくる。
これらのサインは、子どもたちが「死」という概念に興味を持ち始めている、あるいは向き合おうとしていることの表れです。
遊びの中の「死」のテーマへの教職員の心構え
子どもたちが遊びの中で死に関連するテーマに触れているのを見かけた際、教職員は以下の点を心に留めておくことが大切です。
- 慌てないこと: 子どもにとって遊びは自然な学びの場です。不適切だと決めつけたり、すぐに止めさせたりする必要はありません。
- 否定しないこと: 死への関心や探求は、成長過程において自然なものです。「縁起でもない」「そんなこと言わないの」といった否定的な反応は、子どもの探求心や表現を閉ざしてしまう可能性があります。
- 観察すること: どのような遊びの中で、どのような言葉や行動が見られるかを注意深く観察します。子どもの発達段階や個々の理解度を知る手がかりになります。
- 安全な場であること: 遊びが他の子どもへの精神的な負担になっていないか、物理的な危険はないかなど、遊びの場全体の安全を確保することが前提です。
具体的な声かけと関わり方
観察に基づき、必要に応じて子どもたちと関わります。
見守る段階
まずは静かに見守り、子どもたちの様子を観察します。介入が必要かどうかを判断する上で重要です。
問いかける・共感する段階
子どもが助けを求めている場合や、教職員との対話を求めているように見られる場合に、以下のような声かけが考えられます。
- 「〇〇ごっこ、楽しそうだね。今、何をしているの?」と、遊びの内容を尋ねる。
- (お葬式ごっこなどを見かけた場合)「〇〇さん(亡くなった役の子)は、今どんな気持ちなのかな?」と、役になりきった子の気持ちを想像するように促す。
- (虫の死骸を見ている子に)「虫さん、どうしたんだろうね」「何かできることはあるかな?」と、子どもの気づきや考えに寄り添う。
子どもたちの言葉や行動を否定せず、「そうなんだね」「〇〇ちゃんはそう思ったんだね」と、まずは子どもの感じ方や考えを受け止める姿勢が大切です。
対話につなげる段階
子どもの問いかけに答えたり、遊びから発展させてクラス全体で考える機会を設けたりします。
- 子どもの「死んだらどうなるの?」といった問いかけに対しては、断定的な答えを与えるのではなく、「色々な考えがあるんだよ」「人は死んだら土になるって言う人もいるし、空の上に行くって言う人もいるね」など、多様な視点があることを伝えます。そして、「〇〇ちゃんはどう思う?」と子どもの考えを聞き返すことで、対話を深めます。
- 生き物の飼育を通して死に直面した場合は、命の大切さ、生あるものの終わり、そして残された者(私たち)の気持ちなどを、丁寧に話し合います。
- 遊びの中で見られたテーマに関連する絵本を読み聞かせたり、道徳の授業で「生命の尊さ」について話し合ったりするなど、他の教育活動と関連付けて深めることも効果的です。
発達段階に応じた配慮
子どもの死の理解は発達段階によって異なります。
- 小学校低学年: 死を一時的なもの、可逆的なものと捉えがちです。「死んだふり」や「生き返り」が遊びに多く見られます。具体的な事実や、生き物の命には限りがあることなどを、分かりやすく伝えることが中心になります。
- 小学校中学年: 死が不可逆的なものであることを少しずつ理解し始めますが、まだ感情的な理解は難しい場合があります。なぜ死ぬのか、死んだらどうなるのかといった根源的な問いに関心を持つようになります。様々な考え方があることを伝えつつ、子どもの疑問に丁寧に答えることが求められます。
- 小学校高学年: 死がすべての生物に訪れる普遍的な現象であること、そして自分自身にも起こりうることを理解するようになります。生の意味や価値、限られた命をどう生きるかといった、より哲学的な問いに関心を持つこともあります。抽象的な議論や哲学対話も有効になります。
注意点
- 安易な介入は避ける: 子どもたちの自発的な遊びや探求を妨げないよう、過度な介入は控えます。教職員の価値観を押し付けないことも重要です。
- 個々の子どもの状況を理解する: 中には、身近な人の死など、つらい経験を持つ子どももいるかもしれません。そうした子どもたちの存在に配慮し、遊びのテーマがトリガーにならないよう、個別のケアや配慮が必要です。
- 保護者との連携: 子どもが家庭で死についてどのように受け止めているか、ご家庭の考え方などを把握するために、必要に応じて保護者との連携を図ることも有効です。
まとめ
子どもの遊びの中に現れる「死」や「命」に関連するテーマは、子どもたちの健やかな成長の一側面であり、死生観を育むための重要な機会となり得ます。
教職員は、これらのサインを見逃さず、焦らず、否定せず、そして子どもたちの発達段階や個々の状況に配慮しながら、見守り、問いかけ、そして対話につなげていくことが求められます。遊びという子どもにとって最も自然な学びの場を活かすことで、生命の尊さを理解し、自分自身の生と向き合う力を、子どもたちは着実に育んでいくことでしょう。